いなくなった学生たち



● 2023/02/17 (金) に考える

近年、不良少女・少年を見かけなくなった。どうしてだろうか。

何かしらの教育の賜物かもしれない。

けれども私が学生だった時分は誰もが私に「不良」の太鼓判をドン!と押しただろう。怖いものがなかったのもこの時期だ。幽霊心霊、半グレ、そういう誰もがビビるようなことに関して怖いものがなかった。たぶん、私のほうが怖い存在だったと思う。
「何をするかわからない」
なんてフレーズがお似合いの学生時代をすごしていた。まるで大学生みたいに、私は高校の単位もギリギリに卒業した。

「ろしゅ、お前あと2回、英語出なかったら留年するからな」
「もちろん、知っていますよ」

何故知っているか。学生手帳に「正」という字を書いて、計算していたからだ。
出る必要のない授業の時は、近くの秋葉公園へ行ってブラブラしていた。

● 秋葉公園、あるたまり場

高校3年生の時、私は車の免許を取得していたので、秋葉公園の駐車場に車を止めていた。学ランでブラブラとしているものだから、見るからにサボっている。
そんな時、ライターがない時があった。煙草、吸わなきゃだし……よし、あの冴えないおっさんに借りようか。

「すいません、火、借りて良いですか?」

おっさんは私の顔をじっとみて、ライターを取り出して火を付けてくれた。まあ何しろ、学ランだしなぁ。ちょっと頭おかいしよね、私。

「ありがとうございます」

「お前…渡辺いくみを知ってるか?」

渡辺いくみ……よく知っていた。

「胸の大きな女子ですよね」

「そうそう、ありゃでかいよな……」

「あなたは……所謂、変質者?」

あははは…と力なげに笑った。

「しかし、ここの駐車場、すごく繁盛しているよな」

「ええ、たぶん行き場のない人たちなんでしょう。私もそうですし」

「そのとおりだ、仕事を失くして行き場所がなく、家の者にもその事実を話していない。それは私も同様だ」

秋葉公園の駐車場。日中、たくさん駐車しているが、皆大抵、仕事を失くした人々だ。

「で、どうしていくみの話をしたんです?」

おっさんは煙草を美味そうに吸い、煙を吐き出した。

「俺さ、塾やってたんだ」

「やってた?では、やめたんですね」

「そう、もうやっていけなくなった」

おっさんはベンチに座るように促したので、座った。

● 天気は良かった

「塾って、儲からないんですか」

「うちの塾は儲からなかった。大手の塾が学生をかっさらっていくんだ」

なるほど……業界大手には絶対に個人塾ではかないっこないだろう。

「いくみに…それだけじゃない、徹…も知っているだろう、それから京子…名字なんだったか……」

「堀京子ですかね」

「そう、あいつらにすまないと……伝えてくれ」

「どうして私が?」

「自宅の連絡先は知っているが、親御さんも出るだろう。……嫌だよ、ただ、急に辞めることになってすまないとだけ。それだけでいいんだ」

「わかりました、伝えます」

それから日が暮れるまで、おっさんと話し込んだ。今後は弁当屋をやるとか言い出すから、その塾講師のスキルがもったいないだとか、私の恋愛についてのこと。

「ぜってぇ、遠距離恋愛なんてな、うまくいかない。別れることになる」

「いいや、別れません。意地でも別れません」

「あっちでその子は、男見つけるぜ」

「そんな子じゃないです!」

とか、良い相談が出来たと思う。
それから、わずか2ヶ月後くらいで、当時のその女の子とはお別れした。私がキツくなってしまって、けじめを付けたんだ。

スマートフォンのない時代の遠距離恋愛は、上手くいかないんだ。

● 学生たちは?

彼女だけじゃない。たくさんの友達がいたはずなのだけど、みんないなくなってしまった。10年経ち20年経ち、徐々に距離ができてしまうんだ。仕事があったり、結婚したりする人がどんどん増えていく。女の子が結婚……てなると、遊びに誘うにも、旦那さんに悪いよね。そうして、距離が出来て、10年も会わなくなる。週4回、飲みに行っていた女の子とかと、そんな風になってしまうんだ。

不良少年・不良少女たちは何処へ?
何しろ、いい子ばかりになっていないか。それはそれで良いのだけど。

私はとても寂しい思いをしている。

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